大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和7年度(2025年度)本試験
問19 (公共,倫理(第5問) 問5)
問題文
場面1 生徒Fと生徒Gが、後の資料を見ながら次の会話をしている。
F:記憶は、覚えていることだけを指すものじゃないんだね。
G:うん、心理学の本によると、記憶には、覚えるという「符号化(記銘)」、覚えておく「貯蔵(保持)」、覚えたことを思い出す「検索(想起)」、この三つの段階があるんだって。ちょっと、この資料を見てくれる?これは、( ア )に保持されている、言葉の意味についての情報が、( イ )の段階で図形の記憶に影響することを示そうとした実験なんだ。
F:へえ、記憶はもっと単純なものだと思っていたけど、実験の結果を見ると、言葉が表すものに引きずられて「記憶の変容」が起きることがわかるね。
場面2 次の生徒Fと生徒Gの会話は、場面1の続きである。
F:記憶もそうだけど、自分では確かだと思っていることでも、間違っていたことに後から気付いたり、気付かされたりすることってあるよね。
G:例えば、どんなこと?
F:この間の授業で見せてもらった『犯罪白書(令和四年版)』のデータで知ったんだけど、「少年による刑法犯」って、ここ数十年、多少の増減はあるものの、総じて減っているんだよね。(a)テレビでよく少年犯罪の報道をしていたから、てっきり増えていると思ったんだけど、実際には少年の人口比で見ても、件数は減っているみたいだね。
G:思い込んでいることといえば、昨日、同じクラスの人が文化祭の準備に遅れてきた時、(b)本人が準備に乗り気でないから遅刻したと思ったんだよね。でも、本当は乗っていたバスが事故による渋滞に巻き込まれて遅れたらしい。
F:それって、遅れた理由がわかったからよかったけど、知らないままでいたら、相手のことを誤解したままになっていたかもしれないね。
G:意識していないところで、思い込みで判断してしまうって、怖いことだね。
F:こういう思考や認知の偏りのことを「認知バイアス」って言うんだっけ。
場面3 生徒Fと生徒Gが話しているところに、先生Rが通りがかって会話に加わった。
R:認知バイアスについて話しているのですね。
G:そうなんです。認知バイアスってちょっと怖いな、と思って。
R:ただ怖がるのではなく、対処法を考えることも大事です。まず、どんな場面で認知バイアスが起こりやすいかを知り、その上で(c)クリティカル・シンキング、すなわち批判的思考ができるように心掛けることです。
G:批判的思考かあ。人の考えを否定する力が必要ということですか?
R:いいえ、違います。ここでいう「批判」は、人を責めたり攻撃したりするということではなく、よく検討するという意味です。そのため、他人の考えだけでなく、自分の考えも批判の対象になります。つまり、批判的思考とは、自他の主張の内容を論理的・客観的に検討するということです。そうした検討を経ることで、認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断ができるようになるのです。
F:でも、認知バイアスを全てなくすことはできないですよね。
R:そうですね。それに、認知バイアスというと、よくないものみたいだけど、役に立つこともあります。例えば、認知バイアスのおかげで効率的な判断ができるという側面もあります。また、悲観的になりすぎず、心の健康が保てる場合もあります。ですから、認知バイアスをただ抑え込むのではなく、むしろ、活用するという発想も必要かもしれません。
F:なるほど。それなら、(d)認知バイアスがあっても、できるだけ問題が生じない環境を整えるという対処法もありえますね。
G:つまり、(e)認知バイアスへの対処法には二つの方向性があるのですね。
下線部(e)に関連して、例えば、避難が必要とされる異常事態が発生しても、まだ正常の範囲内だと考える認知バイアスが働くことで、対応の誤りや遅れが生じることが知られている。このような問題に対して社会の環境整備をする場合の方向性に対する具体的な対処法について、次の問いに答えよ。
(1) 問題対処の方針として、どのような方向性を重視するかによって具体的な対処法の選択は変わってくる。まず、重視する環境整備の方向性を、次のA・Bとする。
A 認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を個々人に促す環境を整える
B 認知バイアスが判断に影響してもできるだけ問題が生じない環境を整える
(2) (1)で「A 認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を個々人に促す環境を整える」を選んだ場合に、導かれる具体的な対処法として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和7年度(2025年度)本試験 問19(公共,倫理(第5問) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)
場面1 生徒Fと生徒Gが、後の資料を見ながら次の会話をしている。
F:記憶は、覚えていることだけを指すものじゃないんだね。
G:うん、心理学の本によると、記憶には、覚えるという「符号化(記銘)」、覚えておく「貯蔵(保持)」、覚えたことを思い出す「検索(想起)」、この三つの段階があるんだって。ちょっと、この資料を見てくれる?これは、( ア )に保持されている、言葉の意味についての情報が、( イ )の段階で図形の記憶に影響することを示そうとした実験なんだ。
F:へえ、記憶はもっと単純なものだと思っていたけど、実験の結果を見ると、言葉が表すものに引きずられて「記憶の変容」が起きることがわかるね。
場面2 次の生徒Fと生徒Gの会話は、場面1の続きである。
F:記憶もそうだけど、自分では確かだと思っていることでも、間違っていたことに後から気付いたり、気付かされたりすることってあるよね。
G:例えば、どんなこと?
F:この間の授業で見せてもらった『犯罪白書(令和四年版)』のデータで知ったんだけど、「少年による刑法犯」って、ここ数十年、多少の増減はあるものの、総じて減っているんだよね。(a)テレビでよく少年犯罪の報道をしていたから、てっきり増えていると思ったんだけど、実際には少年の人口比で見ても、件数は減っているみたいだね。
G:思い込んでいることといえば、昨日、同じクラスの人が文化祭の準備に遅れてきた時、(b)本人が準備に乗り気でないから遅刻したと思ったんだよね。でも、本当は乗っていたバスが事故による渋滞に巻き込まれて遅れたらしい。
F:それって、遅れた理由がわかったからよかったけど、知らないままでいたら、相手のことを誤解したままになっていたかもしれないね。
G:意識していないところで、思い込みで判断してしまうって、怖いことだね。
F:こういう思考や認知の偏りのことを「認知バイアス」って言うんだっけ。
場面3 生徒Fと生徒Gが話しているところに、先生Rが通りがかって会話に加わった。
R:認知バイアスについて話しているのですね。
G:そうなんです。認知バイアスってちょっと怖いな、と思って。
R:ただ怖がるのではなく、対処法を考えることも大事です。まず、どんな場面で認知バイアスが起こりやすいかを知り、その上で(c)クリティカル・シンキング、すなわち批判的思考ができるように心掛けることです。
G:批判的思考かあ。人の考えを否定する力が必要ということですか?
R:いいえ、違います。ここでいう「批判」は、人を責めたり攻撃したりするということではなく、よく検討するという意味です。そのため、他人の考えだけでなく、自分の考えも批判の対象になります。つまり、批判的思考とは、自他の主張の内容を論理的・客観的に検討するということです。そうした検討を経ることで、認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断ができるようになるのです。
F:でも、認知バイアスを全てなくすことはできないですよね。
R:そうですね。それに、認知バイアスというと、よくないものみたいだけど、役に立つこともあります。例えば、認知バイアスのおかげで効率的な判断ができるという側面もあります。また、悲観的になりすぎず、心の健康が保てる場合もあります。ですから、認知バイアスをただ抑え込むのではなく、むしろ、活用するという発想も必要かもしれません。
F:なるほど。それなら、(d)認知バイアスがあっても、できるだけ問題が生じない環境を整えるという対処法もありえますね。
G:つまり、(e)認知バイアスへの対処法には二つの方向性があるのですね。
下線部(e)に関連して、例えば、避難が必要とされる異常事態が発生しても、まだ正常の範囲内だと考える認知バイアスが働くことで、対応の誤りや遅れが生じることが知られている。このような問題に対して社会の環境整備をする場合の方向性に対する具体的な対処法について、次の問いに答えよ。
(1) 問題対処の方針として、どのような方向性を重視するかによって具体的な対処法の選択は変わってくる。まず、重視する環境整備の方向性を、次のA・Bとする。
A 認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を個々人に促す環境を整える
B 認知バイアスが判断に影響してもできるだけ問題が生じない環境を整える
(2) (1)で「A 認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を個々人に促す環境を整える」を選んだ場合に、導かれる具体的な対処法として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
- 避難時に、直感に基づいてそれぞれが行動できるように、様々な異常事態の発生メカニズムに関して知識の普及を図る。
- 避難時に、自分の判断が間違っていないかを検討できるように、国や地方自治体が発信する公的な情報の利用を容易にする。
- 避難行動を指揮する地域のリーダーを輪番制で決めておき、非常時にそのリーダーに従って行動できるようにする。
- 安心して避難生活を過ごせるように、十分な人数を収容できる避難所を各地に設置したり、非常食を備蓄したりする。
- 直ちに適切な避難行動がとれるように、異常事態が発生した際に、人が危険と感じる警戒色や警告音を提示する。
- 避難時に、お年寄りや身体が不自由な人が取り残されないように、地域の包括的な支援・サービス提供体制を整える。
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