大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和4年度(2022年度)追・再試験
問53 (<旧課程>倫理(第3問) 問7)
問題文
次の会話は、授業後に、人間の思考と自然との関係をめぐり、高校生Dと先生が交わしたものである。
D:人間の賢さは理性的な思考能力によると考えられてきたのですよね。
先生:そうです。だから「理性的動物」というのが、古来の人間の定義でした。e 思想家たちは、理性とはどういうものか様々に論じてきました。
D:でも、そうした思考能力を持った人間が、自然を自分勝手に利用し、荒らし回っていますね。それを賢さとは言いにくい感じがします。
先生:確かにそうですね。ただ、人間の思考と自然との関係について言えば、もっと別の考え方もあります。
D:それはどんなものでしょうか?
先生:例えば、文豪ゲーテは、自然はただ計量され、利用されるものではなく、本来、人間の思考と生きてつながっていると考えていました。
D:生きてつながっている、とはどういう意味でしょうか?
先生:思考する人間と眼前の自然とは、生命という根源を同じくするという考え方です。それを自覚すれば、自然は本来の生き生きとした姿で現れてくるとされます。自然を思考とは別にあるものと捉え、何かに利用しようとする態度とは、対照的だと思いませんか。
D:確かにそう思います。そう言えば、自然を利用しようとする技術のあり方を批判したハイデガーの思想を、授業で習ったことを思い出しました。
先生:よく覚えていましたね。f 人間の実存の問題から出発したハイデガーは、後年、自然はもとより人間自身をも利用可能なものとみなす近代の技術の考え方を批判しました。そして、思考する人間と自然との根源的な関係を探ろうとしました。そうしたハイデガーの問題意識は、確かに、ゲーテと通じていたと言えるかもしれません。
D:そうした思想家たちは、自然との豊かな関係を築くために、人間の思考はどうあるべきかを探求したということなのですね。
先生:そうですね。ここから、ぜひ、思考する人間の賢さの意味を考え直してみてください。
下線部fに関連して、次のア・イは、人間の実存について考えた思想家の説明である。その正誤の組合せとして正しいものを、回答選択肢のうちから一つ選べ。
ア キルケゴールは、人間は自分のあり方を自分自身で選び、未来へ向けて自分の本質を自由に作り上げるが、それは、その選択の責任を全人類に対して負う社会参加(アンガージュマン)でもある、と主張した。
イ ハイデガーは、人間は日常性において自己を世間に埋没させて生きているが、自分自身の死の可能性と向き合うことで、本来的な自己に立ち返ることになる、と主張した。
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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和4年度(2022年度)追・再試験 問53(<旧課程>倫理(第3問) 問7) (訂正依頼・報告はこちら)
次の会話は、授業後に、人間の思考と自然との関係をめぐり、高校生Dと先生が交わしたものである。
D:人間の賢さは理性的な思考能力によると考えられてきたのですよね。
先生:そうです。だから「理性的動物」というのが、古来の人間の定義でした。e 思想家たちは、理性とはどういうものか様々に論じてきました。
D:でも、そうした思考能力を持った人間が、自然を自分勝手に利用し、荒らし回っていますね。それを賢さとは言いにくい感じがします。
先生:確かにそうですね。ただ、人間の思考と自然との関係について言えば、もっと別の考え方もあります。
D:それはどんなものでしょうか?
先生:例えば、文豪ゲーテは、自然はただ計量され、利用されるものではなく、本来、人間の思考と生きてつながっていると考えていました。
D:生きてつながっている、とはどういう意味でしょうか?
先生:思考する人間と眼前の自然とは、生命という根源を同じくするという考え方です。それを自覚すれば、自然は本来の生き生きとした姿で現れてくるとされます。自然を思考とは別にあるものと捉え、何かに利用しようとする態度とは、対照的だと思いませんか。
D:確かにそう思います。そう言えば、自然を利用しようとする技術のあり方を批判したハイデガーの思想を、授業で習ったことを思い出しました。
先生:よく覚えていましたね。f 人間の実存の問題から出発したハイデガーは、後年、自然はもとより人間自身をも利用可能なものとみなす近代の技術の考え方を批判しました。そして、思考する人間と自然との根源的な関係を探ろうとしました。そうしたハイデガーの問題意識は、確かに、ゲーテと通じていたと言えるかもしれません。
D:そうした思想家たちは、自然との豊かな関係を築くために、人間の思考はどうあるべきかを探求したということなのですね。
先生:そうですね。ここから、ぜひ、思考する人間の賢さの意味を考え直してみてください。
下線部fに関連して、次のア・イは、人間の実存について考えた思想家の説明である。その正誤の組合せとして正しいものを、回答選択肢のうちから一つ選べ。
ア キルケゴールは、人間は自分のあり方を自分自身で選び、未来へ向けて自分の本質を自由に作り上げるが、それは、その選択の責任を全人類に対して負う社会参加(アンガージュマン)でもある、と主張した。
イ ハイデガーは、人間は日常性において自己を世間に埋没させて生きているが、自分自身の死の可能性と向き合うことで、本来的な自己に立ち返ることになる、と主張した。
- ア:正 イ:正
- ア:正 イ:誤
- ア:誤 イ:正
- ア:誤 イ:誤
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この過去問の解説 (3件)
01
正解は「ア:誤 イ:正」の選択肢です。
ア キルケゴールは、人間は自分のあり方を自分自身で選び、未来へ向けて自分の本質を自由に作り上げるが、それは、その選択の責任を全人類に対して負う社会参加(アンガージュマン)でもある、と主張した。
→「アンガージュマン」はサルトルが提唱した概念のため、誤りです。
キルケゴール(デンマーク・1813-1855):「実存主義の父」と呼ばれる思想家です。
人間の存在に焦点を当てた、個人主義的で主観的なアプローチを特徴としています。
人間が自由意志を持ち、自分自身の人生に対して責任を負うべきだと考えました。
他人の意見や社会の常識に流されるのではなく、自分自身で考え、選択し、それに従って生きることの大切さを説きました。
アンガージュマン:「拘束」や「参加」を意味し、哲学者サルトルが提唱した概念です。
サルトル(仏・1905-1980):実存主義哲学の中心的な人物として知られ、人間の自由と責任について深く探求しました。キルケゴールやハイデガーの思想に影響を受けた一人です。
人間は絶対的に自由であると同時に、その自由に対して全面的に責任を負うと考えました。
不安から逃げずに向き合い、自分の選択に責任を持つことが大切だと説きました。
イ ハイデガーは、人間は日常性において自己を世間に埋没させて生きているが、自分自身の死の可能性と向き合うことで、本来的な自己に立ち返ることになる、と主張した。
→ハイデガーは、「人は死から目を背けているうちは、自己の存在に気を遣えない。 死というものを自覚できるかどうかが、自分の可能性を見つめて生きる生き方につながる。」という言葉を残しているため、正しいです。
ハイデガー(独・1889-1976):現代哲学の一つの潮流である実存主義哲学の重要な先駆者とされ、「存在の哲学」を展開しました。
ハイデガーの哲学思想の中心は、「存在」についての問いです。
人間が常にすでに世界の中に投げ込まれていると考え、私たちがつねにそのような世界の中で生きていることを強調しました。
不正解です。
不正解です。
正解です。
不正解です。
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02
実存主義の代表的な人物であるキルケゴールとハイデガーについての設問です。
両者の理論を正確に理解しておくことで容易に回答することができるでしょう。
ア:サルトルの説明となっているので不適切です。
キルケゴールは実存主義の提唱者と言われ、主体的な真理を探究し、実存における三段階(美的実存→倫理的実存→宗教的実存)などを唱えた人物です。
イ:適切です。
ア:サルトルの説明となっているので不適切です。
キルケゴールは実存主義の提唱者と言われ、主体的な真理を探究し、実存における三段階(美的実存→倫理的実存→宗教的実存)などを唱えた人物です。
イ:不適切です。ハイデガーの説明です。
正答です。
ア:サルトルの説明となっているので適切です。
キルケゴールは実存主義の提唱者と言われ、主体的な真理を探究し、実存における三段階(美的実存→倫理的実存→宗教的実存)などを唱えた人物です。
イ:適切です。
ア:サルトルの説明となっているので適切です。
キルケゴールは実存主義の提唱者と言われ、主体的な真理を探究し、実存における三段階(美的実存→倫理的実存→宗教的実存)などを唱えた人物です。
イ:不適切です。ハイデガーの説明です。
実存主義を唱えた人物はほかにニーチェやヤスパースなどが挙げられます。
一人ひとりの理論の特徴をおさえ、確実に得点源としたいところです。
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03
正解は、「ア:誤 イ:正」です。
キルケゴールは、人間の実存を唱えた実存主義の先駆者です。キルケゴールの実存主義は、神を信仰することで自分らしく生きることを目指すものです。
ハイデガーは、人の「死」に着眼し、本来の自分を見つめなおすことを唱えた哲学者です。
以下、解説になります。
前述の通り、キルケゴールは、神への信仰を中心に自身の在り方を決めるべきと説いており、自分自身で自由に選択すると説いていません。そのため、アは誤りです。
前述の通り、キルケゴールは、神への信仰を中心に自身の在り方を決めるべきと説いており、自分自身で自由に選択すると説いていません。そのため、アは誤りです。
ハイデガーは、前述の通り、自身の死と向き合うことで立ち返る旨を述べており、正しいです。
正解は、この肢です。
ハイデガーについて人生や死の思想と合致していますが、キルケゴールの実存主義には反します。
ハイデガーは、前述の通り、自身の死と向き合うことで立ち返る旨を述べており、正しいです。
哲学者の人生観や思想は、暗記していなければ正確に解答することができません。著名な哲学者の思想は、細かく覚えておくとよいでしょう。
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